遍路

松尾峠を登る 区切り遍路31日目 ⑥

修行の道場と言われる土佐と、菩提の道場と言われる伊予の境界にある松尾峠。

修行とは悟りを求めて仏の教えを実践すること、または、一切の欲望を断って、心身を鍛錬、浄化を習い修めること。

菩提とは煩悩を断った悟りの境地、または、死後の冥福。

 

どちらにも入る「断」という文字はアルコール依存症の世界にいる俺にとって特別なもの。

あの日以来、酒も煙草もギャンブルも断ち、治療が落ち着いてからは処方薬も断った。

他にも断ってるものはいくつかあるけど、それでもまだまだ修行にも菩提にも程遠い。

2つを叶えるのに今世では無理だと断言できるほど俺のレベルは低いけど、出来るだけ近づきたいとは思っている。

と言うのは現代に溢れた言い訳であって、実際の行動として実践は続けているし、これからも挑戦していきます。

ちなみに修業(修行ではない)とは、学術、技芸を習い修めること。

松尾峠頂上付近のベンチまで何とか、何とか、何とか辿り着きました。

本当に体力が持たず無理だと思った。

5歩あるいては立ち止まって、5歩あるいては立ち止まってを繰り返し、

こんなにも体力が落ちたのか、こんなにも俺は弱かったのか・・・。

いや、荷物が重すぎるんだ。

2匹と2人の今日とこれからの大切な装備と食料が。

ベンチの向かいには日暮れが迫る宿毛湾。

何故、こんなにも自然は奇麗なのだろう。

色んな姿を見せてくれるのだろう。

荒れる日もあり、落ち着く日もあり、人間と似てるんだな。

家を飛び出て遍路をしていなければ、こんな景色は見れなかっただろう。

ベンチの先はもう峠です。

こんな峠にも大きなトイレがあります。

どうやって管理してるのか不思議です。

その後ろには松尾大師堂跡に建つ六角堂。

地元の人でもたくさんの人が「あそこは泊まれるよ」と言うほど何故か有名。

そして俺は思う。

 

「じゃあ、泊まってみろよ・・・」

 

色んな意味でそんな六角堂。

中を開けて挨拶したけど、ここは自分の目で見るところだから写真は撮らない。

そして、奥が正真正銘の松尾峠。

看板の後ろの大きな石柱には従是東土佐國と彫られている。

その向かいには従是西伊豫國宇和島藩支配地と彫られた石柱があり、隣に奥へ続く純友城跡の道しるべがある。

もう少し奥の開けた地にある東屋が今日の野宿地です。

既に寒く、光を集めることが得意な一眼レフで撮影しているから明るく見えますが、実際は急いでテントを設営しないと暗くなる時間帯です。

汗だくで辿り着いてテキパキとテントを設営します。

吹き出ていた汗も立ち止まると一気に冷えて寒くなります。

テントを設営後も食事の準備などに忙しい。

何より明後日、明明後日の篠山道に繋げる明日のことを考えなくてはいけません。

 

今日は何とか来た道をまた戻る打ち戻りと言われる宿毛の道を終えて、修行の道場土佐を終えることが出来ました。

何より松尾峠を登るのがキツかった。

 

いや、そんなことよりもコロナウィルスにより足止めされ、長くかかった土佐遍路。

俺は修行の道場と言われ多くの人が「海ばかりで札所間が長い」と嫌うこの土佐が四国遍路では一番好きで、これから始まる伊予遍路が一番好きじゃないかな。

今でも目に浮かぶ土佐の海が本当に好きだった。

本当にありがとうございました。

 

この日の晩は初日から大喧嘩で、俺は悲しくなり暗闇の松尾峠を30分ほど歩きました。

もう詳しく書きませんが、何かトラブルが起きたとき、それを良い、悪い、勝ち、負け、と、

つまりは「どっちが」と判断する癖を本当に早くやめて欲しいと思う。

根気強く「トラブルが起きたときは勝ち負けではなくて、どうやって解決するか2人で話し合おう」と言うのですが、

良い悪い、勝ち負けである以上、自分を正当化して相手の責任にするしか無くなるので俺はいつも追い詰められてしまう。

我が家のトラブルはいつも本質からずれてしまい、過去の話の持ち出しによりグチャグチャになってしまいます。

過去の話を持ち出すという意味はやはり誰が悪いにとらわれている。

 

俺は涙を流しながら伝えました。

「あなたは今何をしているの?」

「遍路をしに来たのではないの?」

「あなたにとって遍路って何なの?」

「何故俺たちは今、修行と菩提の道場の境目にいるのか、この意味が解らないの?」

「乗り越える時じゃないの?」と。

 

さて、通じたでしょうか?

感情にブレーキはかけれたでしょうか?

 

どんな失敗体験も後に生かしたい。

それしか失敗を成功に変える手段は無く、それこそ失敗が実は成功であったことに気づく瞬間だと、酒を断ち気づかされました。

今夜の出来事は修行の道場のラストに相応しかったと思います。

神様はこうして気付くチャンスを根気強く与えてくれる。

何度も何度も、ピンチの顔をしてチャンスが近づいて来てくれる。

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