この時の気持ちをなんと表現したらいいのだろう?
破壊されていく遍路道に心を痛めもしたし、間違いなく難所だった篠山の疲労もある。
しかし、無事歩けた達成感もあり、
ここ金前橋に辿り着けた満足感もある。
本当に篠山道のことは何ヶ月、いや、2年はずっと調べていたんだ。
しかし、篠山道を検索にかけても、その殆んどは「41番札所へ向かう道は灘道、中道、篠山道の3つがあり」と言うお決まりの、歩いていない知識だけのうんちくばかり。
更に歩いた情報自体も少なすぎて毎回同じ情報を何十回もずっと見ていた。
その殆んどが篠山道としてではなく、津島側から登山として登るもので、この金前橋が始まりだった。
逆に篠山道として山頂から下る情報はやはり作業道に遮られて金前橋まで辿り着けない話が殆んどだった。
だから、ここまでは辿り着けないと思っていたから本当に嬉しい。
皆、この道に挑戦しようと思えば「遭難しないだろうか?」と言う不安は同じだと思う。
人が歩かなくなっても、ここの入口、出口を見守り続けるお大師さん。
残念ながら祠も大師像も朽ち果て始めていた。
こんなの見るとやっぱり寂しくなるよね。
今までどれだけの遍路を見てきたのだろう。
ここに一つ篠山道の記録として残すから、俺が歩いた時よりほんの少し心を軽くして「篠山道に挑戦してみよう」と思う人が現れたら嬉しいと思う。
前回のブログで「この道は勧めない」と書いたけど、俺は自己判断で挑んだし、人に同意貰って挑戦するものでもないから。
多分、現時点では世界一細かい現場の記録としてここに置いていきます。
金前橋を渡り振り返る。
お山さんもきっと乗り切った達成感や、苦しかった疲労や、色んなことを感じているのだろう。
ゴツゴツした岩を渡すコンクリートの小さな橋。
あの状況からよくこの小さな橋を見つけた。
左には秡川温泉の源泉と思われる小さな蓋があった。
ちょうど12時だし昼食をとろう。
昨日の夕方に手に入れた8ℓの水も減ってきているし、この先も水が手に入るか分からないから、秡川の水を汲みろ過して昼食に使った。
とても綺麗な水。
そして、その名前がずっと気になっていた。
信仰の山の麓に流れる秡川。
きっと身を清めることにも使われていたのだろう。
ろ過して飲んでみたいと2人で秡川の水を飲み身を清めた。
これが影響してか、これを書いている今、
遍路を終えると転機が訪れるというのを何度も経験しているが、今回もまた非常に大きな転機が訪れている。
俺は依存症での活動が忙しくなり、お山さんも、仮に俺が神だとすれば、そこに配置する役目に再び帰ることとなった。
きっとこれが俺達がこの世に生まれてきた、とても自然なお役目。
今日の昼食はお湯で戻すだけの、ほんの少量の非常食にしていたリゾット。
残り2食、しかもガスの残りは恐らく1度しか米が焚けない。
まだ雨は問題ないレベルしか降っていないが、今日の予定は今から秡川温泉に入り半日で終えるか、進めるだけ進むか、天気と疲労とで判断するので食料の見通しは立っていない。
まずは秡川温泉に何か食料が売っているか。
コインランドリーはあるのか。
その次は秡川温泉から5km先にある御槇地区の福田百貨店と言う古民家よろずやがどんな品揃えなのか。
外国人向けの遍路地図にある、みまきガーデンという所も気になる。
しかしどれも情報が不足していた。
金前橋で昼食を済ませ、遂に道路に出た。
「さぁ、秡川温泉に入るぞ!」と言いたい所だけど、俺には絶対に見たい物があった。
それは秡川温泉の裏山を通る、今は廃道となった遍路道に残る篠山神社二の鳥居だった。
誰も通らなくなった山中に残る寂しい鳥居にずっと挨拶がしたかった。
しかし、それっぽい入り口が3ヶ所あり、探索に出たが見つけられなかった。
これについては後日改めて訪れたので書くことになるが、当時は疲労と時間の無さと、道路で待たせている1人と2匹のことが気になり早々と諦めてしまった。
見つけることはとても簡単だったのに、焦りが失敗を選んだ結果となった。
車道に出てから秡川温泉は遠くは無かった。
「温泉!温泉!」と素直に喜べないのはこれからの雨予報と、まだ歩く可能性があるからだった。
出来たら風呂でスッキリした後は汗とかかきたくないよね。
俺達の旅が大変なのはここからなのだけど、犬がいるので温泉も交代で入ります。
時間は2倍かかり、待っている方は寒い。
俺はこんな時まずお山さんを優先します。
俺「施設内に自販機が見えたから、もし窓から渡せそうだったらコーラ買って渡してよ」
その願望は無残にも叶わず、しかも寒い中秡川温泉の敷地外の空き地に座っていたら、ここに来て雨……、です。
秡川温泉の目の前にはとても大きな公園のような敷地があったので、ここの小屋に移動しました。
犬を2匹連れて3分ほど歩いて自分のザックを置いて、
再び犬2匹連れてお山さんのザックを取りに行って、また公園に戻ってきてと。
遂に雨が降ってきたから…、進みたかったけどここで野宿だろうか?
野宿には温泉が目の前で良さそうな場所であるけど、この小屋の中にテントは張れそうにありませんし、公園入口には「町の敷地なので無断利用禁止」と書いてあります。
迷っていたらお山さんから「何処にいるの~?」と電話。
秡川温泉は電波が入らないんだよ。
「雨が降ってきたから目の前の公園に移動して雨宿りしてるよ」と伝え、今度は俺が温泉へ。
秡川温泉は家族風呂がメインなのか幾つかの個室に分かれてました。
そのうち一つが男風呂となっており、浴槽は3人じゃ狭いかな?って広さです。
天然温泉を薪で沸かしなおした風呂で、結論から言うとハッキリと分かるほど身体が温まった状態が長く続き、とてもお気に入りの温泉となりました。
施設内に自動販売機と少しのみかんや椎茸などの販売はあり。
そして駐車場には山水が汲める場所もありました。
更に知らなかった情報で、秡川温泉の道路を挟んだ向かいにはうどん屋さんがあったので、貴重な食料ポイントとして記録をここに残します。
温泉から出ても雨は止んでいませんでした。
温泉に入る前に「今からどうしたいか考えてて」とお山さんに伝えていたので考えを聞きます。
お山さん「ここで休みたい」
当初の予定ではそれが一番可能性が高かった。
雨も回避できるし、温泉の後に休めるし、篠山を下ってきた犬達の身体も休められる。
俺もそうしたかったけど、この場所の無断利用禁止の看板や、明日からのガスや食料問題を考えると少しでも進んでいたかった。
それに洗濯もそろそろ限界を迎えかけている。
結局進むことを決意させたのは、この小屋にスズメバチの巣があり「観察していて」とお願いして温泉に入っている間に蜂の出入りがあったことだった。
久万高原町を歩いた時の槙の谷ルートでクウはスズメバチと思われる蜂に刺されており、もう刺されて欲しくない。
雨の中、風呂に入れたスッキリを忘れて歩き出した。
秡川温泉の親父さんに尋ねたら、この先に源池公園という場所があり、そこなら野宿できそうとのことだった。
その場所は既に確認済みで、出発前からの候補だったので、改めて情報が貰えて嬉しかった。
そして秡川温泉目の前の公園の話題が出なかったことも「あそこはいいよ」と言えないと受け取って諦めた。
もう一つ、事前に手に入れてなかったスーパーの情報を手に入れられたのは非常に大きかった。
「公園手前の御槇地区にJAのスーパーがあるけど17時までだよ」と。
どうにか間に合いそうだから、そこでガスと食料問題を片付けよう!
秡川温泉から暫く歩き、橋を渡って県道に出た。
今までとは違う安全な道に生還した。
下ってきた篠山は雲の中。
景色が見られないのは本当に残念だったけど、何より篠山を越えられたことを良しとしよう!
それに俺はまたここに来る。
もっとこの道を歩かなくては!
この山の中にも廃道となった遍路道があるんだ。(橋が無いのでどうしようもない)
県道を少し歩くと集落手前に明らかに気になる場所があった。
番外札所、岩陰大師である。
登ってみると立派な岩の隙間に、これまた興味を惹く石碑があった。