岩屋寺の道 区切り遍路29日目⑧からの続きです。
45番札所の岩屋寺を出発したのは16時頃。
目指すのは約9km先の車を停めている久万公園である。
しかし、俺にはもう分っていることがある。
お山さんはいつも「遍路に行きたい」と言うばかりですぐに心が折れる人だ。
今回も、いや、毎回なんだけど四国を歩き出して直に後悔している。
本人も言う。
お山さん「歩き出して直に遍路って”こう”だったと思い出し後悔する」って。
いつも歩くのが遅いお山さんを振り返ると、この世の終わりみたいに深刻な顔をして歩いているし、普段の生活の中でも、キツイことがあれば直に「遍路みたいだ…」ってボソッと言っている。
四国病って何なんだ…。
岩屋寺から約3km歩き16時半頃には古岩屋荘前に到着。
出来る限り昔ながらの遍路道を歩きたいので岩屋寺ではいつも八丁坂に始まり、八丁坂で終わろうと思うのだけど、行きのアップダウンで既に帰りは「車道を…」と心が折れてしまう。
打戻りと言うのは行きが楽だけど帰りは辛く、行きが辛いと帰りは楽、だけど既に行きで疲れているのだ。
コイツもすっかりいつものゴミ袋スタイルになっている。
この大きな荷物はお山さんで推定10kg+犬の餌や水、他。
そしてお気づきの方もいらっしゃるでしょう。
この人が銀色ではなく黄色を見せる拘りを持つマットの存在を。
俺「どうするの?車の所まで歩くの?」
お山さん「いや、もう古岩屋荘でいい…」
最初からいつでも心折れる予定で、何処でも眠れる準備をして来ているのだ。
はい。
古岩屋荘前の有名な野宿スポットで一泊らしいです。
目の前が温泉で、屋根あり壁あり(ここ意外と重要)、そして我が家のステラリッジテント3型が奥のスペースにスポッと入ってもまだまだ広く、大きいベンチが何個もある(設営撤収が楽)理想的な場所。
目の前には自動販売機、その横からトイレ、先客無し。
勿論俺は、ここまでの道中に野宿スポットを探しながら歩いて「もし先客がいたら…」と考えていたが、後ろの人は頭の中がお花畑で、古岩屋荘前に泊まれると思い込んでいるのだ。
それが分かり切っているからあえて「ちゃんと探しながら歩いてたよね?」と質問するとやっぱり頭はお花畑。
お花畑「仕事辞めたら1人で野宿しながら歩き遍路する!」
とかよく言っているし、それには反対しないから今のうちから遍路の仕方ってものを覚えときなさい。
後ろを歩いてくるだけの上げ膳下げ膳さん。
人気な野宿スポットに行くという意味が分からないのかい?
そこで眠るのは自分であって他人ではないのだ。
眠れなくて困るのは自分なんだぞ。
この意味が分かるかい?
古岩屋荘とはこの距離です。
テントを張り俺は夕食の支度を、お山さんは温泉へ行きます。
犬達は相当疲れたのか、珍しくテントの中から出てきません。
テント内で少しゆっくりしていると、風呂に行ったはずのお山さんがニコニコしながら戻ってきました。
俺「どうした?」
お山さん「モンベルカード無い?😊」
俺「カード類は置いてきてるけど…(歩き遍路が無駄なカードとか持ち歩くかよ!)」
お山さん「スマホアプリでも良いって」
俺「あるよ」
お山さん「受付のお姉さんがね😊私のこれを見て(胸元のモンベルロゴを強調して)50円引きになるからモンベルカード持ってないか聞いて来たの😊凄いよね😊」
俺(あー…、こいつ…、値引きが嬉しいのじゃなくて、モンベルを聞かれたことに喜んでるんだ…)
そう言って嬉しそうに俺のスマホを持って行った。
いや、それよりも1日中歩いてここで挫折した奴が50円値引きの為にワザワザ戻って来るかよ…。
暫くして先に風呂を済ませてきたアイツがこう言った。
お山さん「あなたの好きそうな飲み物は無かったよ」
実は今日1日山道を歩き自動販売機も少なく、お気に入りのゼロコーラに恵まれていなかった俺は、夕食のビールの代わりにゼロコーラが飲みたくて堪らなかったのだ。
目の前にある自動販売機にはカロリーたっぷりのジュースしか置いていない。
カロリー云々と言うより、あの独特な甘さが少し苦手なんだ。
俺「古岩屋荘にも売ってなかったか…」
残念に思い、交代で風呂に向かった俺。
おい、あるじゃねえか。
俺の大好物がいっぱいあるじゃねえか。
お山さん「あなたの好きそうな飲み物は無かったよ」
いや、めちゃくちゃ好きな飲み物があるじゃねえか。
嘘つき💕
アサヒスーパードライは嫌いだったけど、その横のクラシックラガーは生ビールの次に大好きな飲み物。
俺はアルコール依存症と診断されたのでそれ以来断酒はしているけど、それはアルコールを憎むことでも否定することでもなく、ビールが大好きなことは今でも変わらず、これから先も嫌いになる必要は無いのだ。
よし、買おう。
おいお山。
ゼロコーラがちゃんとあるじゃねえか、何処見てんだよお山。
古岩屋荘の岩風呂より何よりまずゼロコーラ。
喉元を通るこの痛み、この一瞬がやめられない!
今日一日のことを思い出しながら、ふっと力が抜ける瞬間。
やっぱり俺は今でも、そしてこれから死ぬまでもアル中なのだ。
コーラを飲み温泉へ向かった。
脱衣所には先客のじいちゃんが3人いた。
うち一人が服を脱いだらカラフルなお絵描きされた身体だった。
中途半端なお絵描きじゃなかった。
一昔の俺なら「ああっ?(# ゚Д゚)」である。
四国の温泉には本当にカラフルさん達が多い印象だ。
いや待て、俺が四国ばっかり行ってるって言いたいのか?
ああっ?(# ゚Д゚)
そんなカラフルがじいちゃんたちとゆっくり体を洗い、お湯に浸かり最高の瞬間を感じる。
俺は野宿遍路をしていて何よりもお風呂に入れないことが辛い。
本当に、本当にそれが辛くて、気持ち悪い身体を我慢して寝袋に包まっているとき涙が出そうになることもある。
それでも一夜明ければやり切った達成感のようなものを感じ、歩き出して直に汗に支配される訳だが、現実的な話2日お風呂に入れないと髪の毛の状態がハッキリと変わる。
日常では烏の行水だとしても、遍路中の風呂では感謝を味わう訳だ。
「ありがとう!ありがとう!ありがとう!」
何度も感謝を思いながら湯船に浸かる。
そして家に帰るとその感謝を直ぐに忘れてしまう…。
脱衣所に料金表が貼ってあった。
俺「あっ、障がい者割引があったんや…」
しかし、受付のお姉さんが気を利かせてくれて俺はモンベル会員価格で入浴している訳だ。
お姉さんの心使いを踏みにじるわけにはいけないし、何よりこの感謝にケチをつけたくない。
帰りにゼロコーラを夕食用に買って古岩屋荘を後にする。
このゼロコーラだってドラッグストアで買えば半額程度で帰るもの。
しかし金を落としたい所でそれをケチってしまえば、また後悔する人生に戻ってしまう。
設備の古さが目立つ古岩屋荘も出来るだけ長く運営していって欲しいと思うんだ。(ギブミー風呂)
さて夕食。
何気にこの狭い我が家での営みが好きだ。
1日の疲れに、限られたものを使って黙々と栄養を送る。
静か、そして、ゆっくりとした時間の流れ。
今日も1日頑張って歩いた。
犬達はご覧の有り様。
この晩、クウは蜂に刺された痛みからか、横になることすら悲鳴をあげ、なかなか寝てくれなかった。
何度も何度も悲鳴をあげていた。
果たして犬を連れて長距離歩く遍路をしていいものなのか。
室内や庭にずっといることが幸せなのだろうか?
とりあえず今日1日歩き、野宿をし、遍路が出来た。
俺がこの旅の最初に書いた「犬の散歩に四国まで来たのか、遍路をしに来たのか」と言う意味は、やはり最低でも1日歩いた後は車の力を借りずに、背負ってきた重いものだけで生活をしたい。
最初から車に戻ることを予定していたのなら、この荷物を背負わず身軽な装備で、車まで戻ることも容易になる日帰り犬の散歩になるけど、やっぱり背負いたいものは背負って歩くんだ。
遍路が出来て良かった。
1日目、やっと終わり。