遍路

宇和島へ 区切り遍路35日目⑦

野井坂を下り終える 区切り遍路35日目⑥からの続きです。

現代の40番札所から41番札所へ向かう遍路道で一般的となっているのは柏坂の灘道からの松尾峠越えですが、今回歩いた野井坂遍路道も有名な道だと思います。

古い遍路道標が多かったのは圧倒的に野井坂ルートでした。

何処にでもある普通の峠越えであり、西日本豪雨被害の影響なのか、倒木や遍路道の決壊の激しい道となっていました。

その野井坂遍路道を下り

きった。

お山さん「休憩しよう」

野井坂遍路道をずっと歩き続けていたし、今晩の野宿予定地までそう遠くも無いので休憩を挟むことにした。

峠を下ってすぐにプレハブの置いてある空き地を見つけてそこに腰を下ろす。

と、途端に降り出した大粒の雨。

 

俺「ええっ!???」

 

昼には雨が上がるはずだった今日は1日中雨となった。

降り出した雨もあっという間にみぞれに変わる。

 

とにかく寒くて休憩なんてしていられない。

慌ててポンチョを着て歩き出した。

この雨にやられた2日間は、雨の中歩く犬の姿がとても痛々しく感じていた。

高速道路を潜り抜け側道を歩く。

遍路ではたまに高速道路の側道を歩くことがあるが、本当につまらない道だ。

時刻は16時前。

野宿予定地まではそう遠くはないが、あくまでも予定地であり、ネット情報にはない自分なりの方法で候補地とした場所なのでテントが張れるかの不安もある。

今日一日は本当に辛い日だった。

晴れる予定が二日連続の雨でメンタルをやられる。

雨の日は一眼レフも使えないし、ポンチョで蒸れるし、着てることが既に気持ち悪い。

 

この旅でチャレンジした篠山道から続く野井坂も最後を迎える。

そのラストは高速道路沿いと言うつまらないものだけど、ここを抜ければ四国で一番好きな街である宇和島へ辿り着く。

暫く歩いていると頭上にお堂が見えた。

「どんなところだろう?」と覗いて見ると見覚えのあるお堂だった。

なるほど!そう言うことか!

ここが野井坂遍路道と松尾峠越えの合流地点となっていたのか。

野井坂遍路道からはお堂の左を通り、松尾峠はお堂の右に下りてくる。

2度松尾峠を越えた経験があるので、この庚申堂はハッキリと記憶に残っていた。

お堂の下の松尾峠側には立派な遍路石が無残に道路に横たわっていた。

途中で折れており「いなり」しか読めず。

 

この付近の民家の庭にあると言われている3つに折れている遍路石には、

嘉永五子年(1852)是より御城下番所迄一里半 四十一番いなり様江四里二丁 道後湯の町江四十里 同寸ぐみち二十五里 是より篠山權現様迄五里半 是より右おつき通 観自在寺迄八里

と書かれているようだが、それとは違う遍路石だろうか?

だとしたらまだ把握されていない遍路石なのだろうか?

じっくり見てくれば良かったが、雨と寒さで見てこなかったことが悔やまれる。

その先に国道56号線。

ここから先は見慣れた道だ。

この旅の新しい道への挑戦はここで終わった。

遍路道は国道の一つ手前の道を歩きます。

すると国道で見慣れた車がこっちに手を振っている。

 

お山さん「あっ、そらうみさんだ!」

 

そう、実は昨日もお接待に来て下さったそらうみさんと秡川温泉へ向かう時、今日も温泉に連れて行って貰えると約束をしていたのだった。

このことをお山さんには隠しておいて、この人がいつものように挫折したときの元気つけに取っておこうと思っていたが、

今日はまさかの雨で歩き出してすぐに心が折れかけたこの人に早くも伝えることとなった。

そして車を停めてきたそらうみさんと暫く一緒に歩き、

目標としていたコインランドリーに到着。

今日は何が何でも衣類の洗濯を済ませておきたかった。

明日には終わるこの旅も2日間雨に濡れて歩いたし、汚れた服は本当に着たくないし、綺麗な服で旅を終えたい。

 

このコインランドリーが今日の目標だったので、この近くで野宿出来そうな場所を見つけていた。

先にその場所の確認を済ませてくれていたそらうみさんからはいい返事が聞けた。

そして実際そこに行ってみると、ひっそりとしたお堂の脇で、しかも空海が一晩の宿を借りた由来のある場所で何かの縁を感じた。

そこでさっとテントを張り荷物を準備して、そらうみさんの車で宇和島の街へ向かうこととなった。

その後、そらうみさんが調べてくれた宇和島の銭湯に行き、スーパーで夕食を買いテントに戻った。

銭湯の話を聞きながら以前入った銭湯の名前を思い出せずにいたが、着いて見るとあの銭湯だったことが嬉しかった。

お遍路さんはお接待で無料にしてくれる銭湯だったけど、今回は旅の前から前回の御礼も込めてお金を払いおうと決めていた。

遍路の格好をしていなかったので普通にお金を払って入浴し、カラフルボディーが一杯の狭い浴槽に「やはり宇和島だ」と感じながら暖かい湯で冷え切った身体を温めた。

 

俺が宇和島の街を好む理由に、この街独特の雰囲気がある。

何故か宇和島に来ると大阪に来たような錯覚に陥ってしまう。

宇和島の人はよく話しかけてくれるし、とても不思議な街だ。

ヤクザの話でも出てくる土地だし、幕末には力を持っていた不思議な街、何故か伊達の街でもあり、藤堂高虎の街でもある。

そんな街を明日は歩き、この旅のゴール地点である三間へ向かうこととなる。

テントに戻り、そらうみさんから今日も頂いたお接待の数々を食べる。

旅をしていると自炊とは言えコンビニや総菜ばかりになり、こうした自然の食材が本当に嬉しい。

 

この日の夜もまた雨となった。

この野宿地は今でも思い出すほど心洗われる場所だった。

ボヤっと辺りを照らす、何処か切ない街灯1つでひっそりと寝た思い出が目に焼き付いている。

 

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